TOKYO KASEI GAKUIN UNIVERSITY presents
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フードマイレージに配慮した「SDGsランチ」の開発

関連テーマ
  • 野菜
フードマイレージに配慮した
「SDGsランチ」の開発
千代田区日比谷

はじめに

千代田区にあるキャンパスに通う大学4年生6名が、管理栄養士を目指して勉強する過程で「SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」に興味を持ち、食の面から「持続可能な社会の実現のために、今、私たちができること」を考え、活動しました。活動の内容と成果をまとめましたので、ぜひご覧ください。
本レポートが、皆さまにとって「持続可能な社会の実現のためにできること」を考えるきっかけとなれば幸いです。

日本におけるSDGsの課題

2015年9月に国連総会でSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されてから8年が経過しました。

2023年6月に公開された国際レポートSustainable Development Report (持続可能な開発レポート) 2023には、日本を含む諸外国のSDGsの達成度や進捗状況などが示されています。達成度ランキングにおいて日本は166ヵ国中21位で、前年度の19位から後退してしまいました。

     
  • 出典:Sustainable Development Report (持続可能な開発レポート)2023

17ある目標のうち「課題が残る」、「重要な課題がある」あるいは「深刻な課題がある」とされた目標は15でした。その多くは食に関わるものです。特に、目標2「飢餓をゼロに」は、食の観点から見ると目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」ともつながっており、食料の多くを輸入品に依存する日本は生産、加工、流通、消費、廃棄などのフードシステムの側面から解決していくことが求められています。

キャンパスがある千代田区は、昼間人口が多く、商業施設を多数有することから、フードシステムにかかるエネルギー消費が大きく、対策は重要と考えます。そこで、フードシステムにおけるエネルギー消費や環境負荷を見える化するため、フードマイレージに着目して日常的に消費される食品の流通状況を調査しました。

フードマイレージとは

フードマイレージとは、食料の輸送量t×輸送距離 kmで求められた食物の輸送に関する指標です。
食料を輸送する際には、化石燃料などの自然エネルギーの消費、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出といった環境への負荷をともないます。つまり、フードマイレージは環境への影響を数値として見える化したもので、数値が大きいほど環境負荷が重いことを意味します。
例えば、じゃがいも5トン(t)を東京(羽田)まで空輸した場合のフードマイレージは、北海道(帯広)産では5t×約850km=4,250t・kmとなります。対してアメリカ産では5t×約10,908km(ワシントンからの距離を設定)=54,540 t・kmと12倍以上になります(参照:朝日新聞「SDGs ACTION」)。
特に航空機を用いた輸送は、鉄道や船舶に比べて二酸化炭素排出量が多く、環境負荷が大きい輸送機関です。
日本における食料の輸入にともなうフードマイレージは900,000百万t・kmで、韓国の約3倍です。そして、1人あたりのフードマイレージは約7,000t・kmです(参照:農林水産省「フードマイレージ」について)。その多くは、穀類が占めています。

千代田区における共創的SDGs活動
~フードマイレージに配慮した「SDGsランチ」の開発~

私たちは、フードマイレージに配慮した食材を活用したメニューを開発することとしました。
まず、主食は国産の米粉を使った「パン」を作ることにしました。
小麦粉に代えて国産の米粉を用いることで、フードマイレージを小さくできる、つまり環境負荷軽減につなげることができます。そのうえ、食料自給率の向上に寄与することができます。
また、米粉は小麦粉と異なりアレルギーの原因となるグルテンを含んでいないため、グルテンフリーのパンとして安心して召し上がっていただけます。
加えて小麦粉のパンにはないもちもち感、しっとり感を楽しめます。
実際に食べてみると、原材料が米なので、きんぴらごぼうなど和食のおかずとも相性が良いことに気づきました。
私たちは、このパンを2023年6月18日(日)に開催されたローズ祭(千代田三番町キャンパス学園祭)で販売することにしました。

  • 米粉パン製造の様子
  • 焼きあがった米粉パン
  • 袋詰め作業の様子
  • 米粉パン販売の様子

200個販売したところ、あっという間に完売しました!
購入してくださった方から、「SDGsに貢献できるから」よりも「おいしそう(おいしい)」というお声を多くいただきました。
つまり、生産者がSDGsに配慮したおいしい商品を提供することができれば、消費者が自然とSDGsに貢献できるのではないか、と考えました。

次に主菜のメニュー開発に着手しました。
米粉の特性として、油の吸収率が低く、また揚げ物の衣に用いるとサクサクとした食感が長続きします。そこで、「フライドチキン」と「魚(カジキ)のフライ」の2種類を考案しました。
その他、米粉のとろみを活かした「コリンキーの冷製スープ」、デザートとして「オレンジとジンジャーのゼリー」を組み合わせ、「SDGsランチ」としました。
日比谷パレス(千代田区日比谷公園1-6)の小林シェフが、どのお料理も国産の食材にこだわり、さらになるべく近隣の生産者さんからの食材を多く取り入れてフードマイレージを小さくするなど、美しいだけでなく、食べる人にも地球にも優しいランチプレートに仕上げてくださいました。

  • 左上:フライドチキンのランチプレート、右上:魚のフライのランチプレート(どちらも米粉パン、野菜、サルサ付き) 左下:米粉でとろみづけしたコリンキーの冷製スープ、右下:オレンジとジンジャーのゼリー

開発した「SDGsランチ」を日比谷パレスで2023年9月1日~31日まで販売しました。
終了後、レストラン従業員に聞き取りを行ったところ、喫食者に「SDGsランチ」が選ばれた理由には「SDGsに貢献できるから」よりも、値段や大学生との共同事業に魅力を感じていることが挙げられました。つまり、ローズ祭での米粉パンと同じく、「SDGsに貢献できる環境にやさしいメニューを選んでもらう」ことよりも、「食べたいものが自然とSDGsに貢献できる」魅力的なメニューを開発することが、SDGs活動の促進に有効であると感じました。

フードマイレージを用いた食育

メニュー開発と並行して、フードマイレージや環境負荷を軽減する食の選択方法に関する情報を掲載した食育教材を制作し、これを活用して若い世代の消費者である大学1年生と高校1年生を対象に食育を実施しました。
食育教材の構成は、①SDGsとは、②輸入と国産 どちらのパンを選びますか?(ワークシート)、③私たちの生活にかかる環境負荷、④フードマイレージとは、⑤国消国産、地産地消とは、⑥持続可能な食生活を実現するためにできることは?(ワークシート)としました。

  • 大学4年生が実施した食育授業の様子
  • 大学1年生の授業風景
  • 高校1年生の授業風景

大学生も高校生も授業前のアンケートでは、食品を選択する際に重視する項目として「値段」を挙げていましたが、授業後には「日常生活でSDGsおよびフードマイレージに配慮した食品を選ぼうと思いましたか」に対し、大学生では約94%、高校生では100%が「取り入れたい」と回答し、食育授業を通じて、SDGs達成やフードマイレージの削減に向けた意欲が高まったことが示唆されました。

さいごに

今回の取り組みから、フードマイレージはSDGsに関する食育の題材として有効と考えられました。加えて、「自然とSDGsに貢献できる機会」を提供することが重要であることが示唆されました。
今回得た経験を活かし、SDGs達成に向けて人々が参加できる選択肢を増やすことや、達成度を実感できる環境を整えていくことに、これからも貢献していきたいと考えています。

この場をお借りして、お力を貸してくださった皆さまに心より御礼申し上げます。

取材先
日比谷パレス
住所 〒100-0012 東京都千代田区日比谷公園1-6
HP https://hibiyapalace.co.jp/