TOKYO KASEI GAKUIN UNIVERSITY presents
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平安堂「墨と筆でお品書き」編

関連テーマ
  • 墨・筆
平安堂
「墨と筆でお品書き」編
千代田区九段南
~墨と筆でお品書きが食事を彩る~

皆さんは、墨や書道筆についてどのくらい知っていますか。
書道による漢字や仮名文字などの筆文字は、無機質な活字と比べると、勢いや強さ、インパクトがあって、より気持ちが伝わりますよね。書道の経験は、小学校、中学校の書道の授業で習字をしていた方、習い事で書道教室に通っていた方、部活動で習字をしていた方と、様々だと思います。

今回、11日18日九段上にある平安堂さんで墨と筆について取材をしてきました。
平安堂さんは明治26年(1893年)5月に開業された千代田区の九段上にある書道用品店です。墨や筆は、学童・初心者のお稽古から書道家の方々まで、また、普及品から高級液体墨まで幅広くご用意されており、客層の幅もとても広いです。

さて、今回の取材では、私たちが事前に考えた以下の5つの疑問について質問をしてきました。ごく普通に疑問に思うこと、書道経験が深いからこそ浅い方より疑問に思うことなど、私たちが考えた質問を、丁寧に、詳しく回答をしてくださいました。書道の経験が深い方、浅い方でも興味を持ってお読みいただけると思います。

  • 取材の様子
  • 取材の様子

1、昔と現在での「筆と生活の結びつき」の移り変わり

筆は中国から日本に伝来して以来、「読み」「書き」に使われる生活になくてはならない伝達手段として古くから使用されてきました。特に筆が使用されるようになったきっかけは、飛鳥時代や奈良時代に仏教が伝来したことで、多くの人が写経を行うようになったことでした。もともと写経の目的は中国から伝わった経典を広く伝えるためだったと考えられていますが、こうした仏教の伝来を通して、日本で筆を使う文化が根付き始めました。
では、昔と現在での筆が使われている場面の移り変わりについて考えてみようと思います。昔は手紙を書く際は筆と墨を使うことが当たり前で、手書きでした。しかし、現在では手紙を書く際はペンやボールペンを使うため、筆と墨を使う人はほとんどいません。また「手紙を書く」という機会自体が減っており、現在ではパソコンや携帯電話を使用した電子メールによる伝達というものが主となっています。さらには、誰の家にも必ずある「表札」や、故人を供養するためにお墓の後ろに立てられる「卒塔婆」も昔は筆と墨で書かれていましたが、現在では印刷式のものも見られます。
日本は現在デジタル化が急速に進んでおり、昔は、情報や意思の伝達の手段として用いられていた筆と墨を使う機会があまりなくなっているのが現状です。電子機器があって当たり前の時代になりつつある現在、昔から大切にされてきた筆と墨が使用されなくなっていることに寂しさを感じます。電子機器で情報や意思を伝えることは簡単ですが、筆と墨を用いた手書きにしか出せない趣があるため、ぜひ多くの方に筆と墨の良さを改めて感じてもらいたいと思います。平安堂は、創業時の明治26年から約127年間、様々な困難に遭いながらも、場所を変えずに現在まで筆や墨などの書道用具を販売し続けています。

  • 店舗の時代の移り変わり

2、筆は、どのように引き継がれ、今後どのように継承していきたいですか?

昔から使われている筆はどのようにして今の時代に引き継がれてきたのでしょうか。
今回取材させていただいた平安堂の大野妙子さん、関口愉可さんは生まれた時から家が筆を販売していたので小さいころから筆や墨に触れていたそうです。そのため、大人になったら平安堂を継ぐつもりだったとおっしゃっていました。
筆などは職人の方が一から手作りで作成しており、技術が必要になってきます。職人の方は高齢の方が多く、若い職人の方が少ないそうです。これから先もっと若い職人の方が減ってしまうと心配されていました。
先述したとおり、現代ではデジタル化が進んでおり、筆を使用して文字を書く機会が減っています。そのため筆に興味を持つ人も減っています。デジタルにはデジタルの良さがありますが、筆には筆の良さがあります。私たち若い世代が日本の昔からあるものに触れ、興味を持つことで、日本の伝統をまた次の世代に受け継いでいくことができると思いました。

3、墨と筆に相性はありますか?

墨や筆にはいろいろな分類の仕方がありますが、使い方によっても、柔軟に使い方が変わるため、あまり分類に縛られる必要はないそうです。また、墨の原料である煤には主に鉱物系と植物系の2種類があるそうです。鉱物系は多量に墨を使いたい大きい作品などに向いているとのことです。植物系は伸びが良いため、仮名等に向いているようです。筆や墨には多くの種類があります。この質問では相性についてお聞きしましたが、相性という表現ではなく、適している・向いているという表現をするとおっしゃっていました。

  • 販売されている筆

4、様々な筆がある中で、選び方のコツ、使い分け方はありますか?

まず、大切なのは「何を書くか」ということでした。例えば写経を書く場合、雀頭筆という雀の頭のような形をした毛先の鋭い筆が適しており、これは写経のような小さい漢字の繊細なところまで表すことが出来る筆です。更に、楷書の場合は固めの筆を選んだり、行書・草書の場合は柔らかめの筆を選んだり、字体によっても筆の選ぶことができます。自分だけでぴったりの筆を見つけるのはできないと思うかも知れませんが、お店の方に書く字のサイズ、予算、剛い毛と柔らかい毛のどちらが良いのかを伝える事で、選んでくださります。
先ほどあった雀頭筆はその名の通り雀の頭のような形状の筆ですが、筆に使われる動物の毛はまだまだたくさんありました。大きな筆は馬の尻尾やヤギの毛、小筆の毛先にはイタチやネコやウサギ、馬の胴体の毛が使われているそうです。更に、筆によって一種類の動物の毛で作ったものや、複数の毛を混ぜて作ったものがあり、そのような点からも書き心地は変わってきます。
そして、様々な種類の筆を選ぶ上で大切なのは「何を書くか」ということと、もう一つは自分の好みだそうです。僅かな違いからも書き心地や好みが変わってくるというのは面白いですね。また、書には様々な書体、書風があり、筆を変えるだけで表現も変わり、違う味わいの字を書ける事も楽しむ事ができます。慣れてきたら、様々な筆を試して、楽しむのも良いですね。

  • 販売されている筆

写真は、お品書きを書いている様子です。使用した筆は、イタチの毛でできている物です。この筆は、とても柔らかく、ひらがなの曲線が書きやすかったです。

  • お品書きを行っている様子

5、お品書きを見たときにどのようなイメージを持ちましたか?

平安堂さんに取材したところ、「和紙を使って筆でお品書きを書くということは手間がかかってしまうことなのに、手間を惜しむことなく書かれているお店は、ひとつひとつの料理への格が他の店舗とは違う印象を受けます。また、自分達が作った料理をお客様に提供することに対して、ひとつひとつの料理に愛情を込めて、きちんとその料理のご説明をしてくれるのだろうと思う。」とおっしゃっていました。
皆さんはどう思いますか。私も平安堂さんと同じようにお品書きがあるお店に行くと、食材にもこだわりを持ち、美味しい料理を提供してくれるだろうという期待感を持って注文します。このように、パソコンによる機械的な文字ではなく筆を使用した手書きのお品書きを見ると、その書いた人の想いが表れ、それが私達にも伝わり、料理に対する期待感に繋がって行くのではないかと思いました。

実際にお品書きを書き、お品書きが与える食事への影響について体験してみました。

和食で、寒い季節に食べたいもの………私達はおでんのお品書きを書きました。

  • おでんのお品書きを書き、お品書きが与える食事への影響について、実際に体験してみました。使用した墨、筆、お品書きの紙は平安堂で購入しました。皆さんは、お品書きがない場合、ある場合でどのような印象を持ちますか。

お品書きなし
お品書きあり
  • どうですか。お品書きがあるほうが、「おいしそう・高級感がある」と感じませんか。皆さんもお時間があるときに、筆でお品書きを書いて見るのはいかがでしょう。

最後に…

今回の取材を通じて、様々なことを学びました。例えば、筆には多様な動物の毛を使って作られていること、また、孫の髪の毛を使った筆を作る方もいることです。動物の毛の質によって、字の印象が変わってきます。さらに、このような筆に関することだけでなく、管理栄養士を目指す学生として学んだこともあります。お品書きがあることにより、料理の見た目や華やかさがよくなり、喫食者の食欲をそそる効果があることです。この経験は、今後、生かせる場面があると思いました。例えば、病院で働く際、病院食は質素なイメージあると思いますが、そこにお品書きを加えることで、患者さんはいつもより食事を楽しむことができると思います。管理栄養士は、対象者の栄養を管理するだけでなく、いかにして対象者に食事を楽しんでもらうかを考えることも大切ということを再確認することができました。

取材先
株式会社平安堂
住所 〒102-0074 東京都千代田区九段南2-3-25
TEL 03-3262-3621
HP http://www.sho-heiandou.co.jp/product

※おすすめ商品
写真の和紙の便せんや封筒です。たくさんの種類があり、取材時に購入した学生もいました。

店舗からのメッセージ

お若い学生の方達が日本の伝統文化に興味を持たれることは、書道用品の製造、販売に携わる私達にとっても嬉しいことです。率直な疑問を質問事項としてしっかりご準備され、熱心に聞き入っていらっしゃる姿が印象的でした。筆、墨などとお品書きを結びつけ、お品書きの魅力や重要性を表現して、まとめ上げられている記事を興味深く拝読させていただきました。